いずれは全て車道に出よ

 11月29日付の信濃毎日新聞に、ちょっと気になる記事が載っていました。

diary自転車は「全て車道に出よ」ではない 県警交通部長示す

 これは平成23年10月25日に警察庁から出された通達『良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について』を受けて、長野県警察としての対応を示したものです。

 警察庁というのは全国の警察を管轄するところですから、長野県警察が「県内の地域性や特殊性を考慮して状況に応じて指導していく」のは当然と言えます。
 この間、県民からはいろいろな意見が上がり、新聞の投書欄にも様々な声が寄せられています。それらを組み上げて、長野県としての交通政策を遂行していかなければなりません。


 しかし、3点ほど、気になる所がありました。

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県内では、歩行者が少ないなど、自転車が歩道を走っても危険にならない場合がある
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 これは新聞投書欄にもよく見られるものですが、警察の交通部長としてはいかがなものでしょうか。
 これは歩道のあり方、道路構造の間違いを示しているに過ぎず、これをもって歩道走行容認とは、法律を守るべき立場の言葉とは思えません。
 果たしてその歩道が本当に必要なものかどうか、今ひとつ検討する必要があるでしょう。

 郊外において、自転車が歩道を通行することを認めたままにしていると、市街地でも通行する自転車は減らないでしょう。そもそもどこからが通行できるのか、どこからがダメなのか、その基準は何でしょうか? はっきりしないままでは混乱を招きます。
 また、歩道では徐行を求められますが、それでは自転車本来の機動性を発揮できません。自転車には次世代交通の一翼を担うことが期待されます。それに見合った交通規制が求められます。
 車道を右側通行する自転車も、自転車は歩行者と同じであるという誤った認識から来ています。自転車は車両であり、歩行者ではないという、意識改革こそが必要だと思います。


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車道の路側帯を利用して白線とカラー舗装で区切るなどした自転車レーン
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 これは県警交通規制課によると書いてありますが、記者の勘違いかもしれません。
 そもそも路側帯は歩道の設けられていない道路に設置されるものであり、自転車レーンとは関係のないものです。自転車レーン(自転車専用通行帯)は歩道が設置された道路の、車道部分に設置されます。
 路側帯は本来、歩行者の通行に供されるものであり、軽車両である自転車の通行は、歩行者の通行を妨げない限りにおいて認められます。
 路側帯と自転車レーンは全く別物であるということを、理解していただきたいと思います。


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事故の約6割がクルマとの出合い頭という。
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 他社の報道にミスリードされてか、車道走行は危険という声をよく聞きますが、実際にはこの記事にも書かれているように出会い頭の事故が多く、その大部分は歩道走行に起因するものと思われます。
 そもそも車道を走行する自転車は自動車運転手から常に認識されているのに対して、歩道を通行する自転車は自動車運転者から認識されにくく、交差点でいきなり目に入るので事故の原因になりやす
いのです。
 また、側道から幹線道路へ進入しようとする自動車にとって、右側から来る自転車は認識しやすいのに対し、歩道上左側から来る自転車は発見が遅れ、事故になりやすいという国土交通省の資料もあります。

diary車道と歩道の安全性の比較

 であれば、交通部長の「自転車は全て車道に出よ、ということではない」の根拠が薄くなります。
 警察発表を鵜呑みにするのでなく、広く資料を当たって取材すると、もっと深みのある記事になったと思うと残念です。


 今回の警察庁通達は、40年も続いてきたクルマ中心の交通社会から、歩行者中心の交通社会への大転換です。長野県警察でも、その真意をしっかりとつかみ、方針転換してほしいと思います。
 その際に、きちんとした行程表を元に、一定の期間、柔軟な対応をすることは、当然ありうることと思います。これからの長野県警察の活動に期待します。


TEAM KEEP LEFT
(2011/12/04 投稿)


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